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我が国におけるメチル水銀汚染-序章

1973年5月22日、八代海と対峙しない海岸線の熊本県有明町(天草上島・現天草市有明町)で第三の水俣病が発生しているという報道がありました(朝日新聞,1973.5.22)。1971.7に発足していた環境庁にとって初めて、その存在を誇示できる機会を得たのです。しかし、魚介類の漁獲・販売を規制するという(暫定)基準は、それまでの公害を取り仕切っていた厚生省が改訂しました。総水銀濃度0.4 ppm超、同時にメチル水銀濃度0.3 ppm超の魚介類が規制されるという基準ですが、半世紀近く経過してもこれらの数値の変更はありません。人体の安全(健康)を重視して定めた値であり、行政としては相当に勇気を奮ったと評価できるでしょう。

環境庁は、その暫定基準の下で水銀使用工場のある全国10県の9海域での魚介類、および全国の水揚げ魚介類と指定河川の川魚と底質土の水銀調査(総点検)の実施を関係機関(自治体)に求めました。

全国10県9海域(沿岸に水銀を使用する事業所がある)における第一次調査(正に第三の水俣病の発生の有無が念頭にある)では340検体(目標検体数の約3%)の測定段階で、熊本県(水俣湾;チッソ)と山口県(徳山湾;東洋曹達・徳山曹達→クロルアルカリ工場=水銀法電解による苛性ソーダ製造)を除く7海域の魚介類水銀濃度は暫定基準値以下でした(毎日新聞,’73.7.24)。また、その3週間後には1,012検体の測定を済ませ、暫定基準超えは総水銀で3検体、メチル水銀で無検体(同時の基準超でないので規制されない)との報告でした(毎日新聞,’73.8.14)。これを受けて、沿岸にクロルアルカリ工場のある富山湾の富山(鉄興社),氷見(日本合成・東亜合成),および魚津(日本カーバイド)の3海域,新居浜(東亜合成),水島(住友化学・関東電化・水島有機・岡山化成),酒田港(日新電化・鉄興社),有明海(三井東圧化学)およびチッソの外海である熊本県八代海(何故か出水沖の八代海は調査対象外)の7海域は安全としました。一方で水俣湾および徳山湾は漁獲規制の対象となりました(朝日新聞,’73.11.10)。何と、’68年5月のアセトアルデヒド工場生産中止後から’73年11月までの水俣湾は漁獲規制されていなかったのです。

一方、全国水揚げ魚介類と指定河川の川魚の水銀総点検では、新潟県関川河口の直江津地先海域、および鹿児島湾奥の魚介類の各水銀濃度が暫定基準を超えていたことから漁獲が規制されました(朝日新聞,’74.9.6)。なお、規制対象外である川魚では、全国17河川・水路の116検体の中、40検体(34.5%)で総水銀(規制対象外なのでメチル水銀測定はしていません)の暫定基準を超えていました(環境白書,環境庁,1974)。

漁獲が規制された4海域のメチル水銀汚染への対応策を記します。1)徳山湾;15 ppm以上の二つのカセイソーダ工場由来とされる水銀を含んだ海底質の浚渫と埋立て(‘75年7月着工、‘77年3月竣工)が行われました。2)水俣湾;湾内魚類の湾外への移動を抑制するための仕切り網を設置し(‘77年10月)、加えて25 ppm以上の水銀を含む海底質の浚渫と埋立て(‘77年10月着工、‘90年3月竣工)が行われました。徳山湾でも水俣湾でも魚介類の水銀モニタリングが行われました。その結果、徳山湾の漁獲規制は、’79年10月から一部解除され、’83年12月にクロダイを最後に全て解除されました。水俣湾の魚介類は、’94.10月に国が定めた暫定基準を下回ったことで、’97.7月に安全宣言、同年10月に仕切網撤去、そして漁業も再開されました。

徳山湾と水俣湾のメチル水銀汚染源は調査して特定したのではなく、のっけから「公害」と決定していたのですから、工場の操業中止(あるいは完全循環式排水の採用)後、一定時限経過すれば、漁獲規制は解除できるのではないでしょうか。浚渫・埋立て工事に徳山湾では1年8か月、水俣湾では13年5か月掛かっています。比較できないほど工事は水俣湾の方が大規模です。

しかし、’73年に報告された魚介類のメチル水銀レベルに差はありませんでした(徳山湾;平均0.51ppm,min-max 0.36-0.60ppm,5種類,水俣湾;0.48ppm,0.35-0.67ppm,5種類)。徳山湾は水俣湾の約15倍の表面積です。水深は比較していませんが、底質の水銀量を浚渫した底質の水銀濃度と浚渫期間から推定すれば、水俣湾が徳山湾の20倍を超えていたでしょう。底質水銀含有土を浚渫したのは、それがメチル水銀汚染源であるということです。したがって、水俣湾は徳山湾の300倍のメチル水銀負荷を受けながら、魚介類のメチル水銀レベルは両者同等です。誰ひとり問題にしていません。全く定量的な観点が抜けています。Dose response relationship を無視するのは、震度5などというレベル分けに意味はない、と言うようなものではないでしょうか……。徳山湾の問題はいずれ記すつもりです。

4つの海域のメチル水銀汚染に戻ります。

3)鹿児島湾奥には沿岸に水銀使用工場が無いことから、桜島の海底火山活動による自然由来の水銀汚染という予断の下で調査が進み、予断通り、桜島海底火山が最も疑われると暫定的に報告されました。4)直江津地先および関川流域については、当初、関川流域に在った水銀使用の工場群(信越化学・日本曹達・電気化学の3クロルアルカリ工場および大日本セルロイド;アセトアルデヒド工場)が疑われました。しかし、その後、鹿児島湾奥の自然汚染を受けて、焼山・妙高山に由来する火山性自然汚染と改めて報告されました。

鹿児島湾魚介類の水銀モニタリングは2003年で中止されました。中止の理由は明らかにされていませんが、鹿児島県の財政の問題と思われます。鹿児島湾のメチル水銀汚染魚(タチウオ,キアマダイ,ソコイトヨリ,アナゴ,マアジ,オオメハタ,アオリイカ,アカカマス,ヤガタイサキ,マゴチ)の漁獲の自主規制は自然汚染なので解除出来ないと言っています。一方、’73年から続いた直江津地先のメチル水銀汚染魚(イシモチ,カナガシラ,カナド,マガレイ,およびアカムツ)の漁獲の自主規制は、2000年から3年間暫定的規制値を超える魚が検出されなかったことで、イシモチを最後に2003年に解除されています。水銀モニタリングも中止しています。関川流域の川魚の水銀モニタリングは現在も続けられていると思われます(2015年までは報告あり)。水銀モニタリングの結果を基に、漁獲規制流域は、その都度、解除されています。近年、流域で複数の暫定基準超の検体が報告されています。火山性自然汚染が進んでいるとは報告していません。ここでも、量反応関係は無視されています。

第三の水俣病問題から発展したメチル水銀汚染魚の問題はここに挙げた4海域です。しかし、全国には多数の水銀汚染が報告されており、海生研OB会HPを通して、徐々に明らかにします。次回は関川流域について記述します。

2 thoughts on “我が国におけるメチル水銀汚染-序章

  1. admin

    台風18号が鹿児島に近づいていますね。
    かなり、危険な最強台風みたいです。
    935hPa。
    私が学生時代鹿児島で体験した台風は、950mb。物凄い雨で、土砂(シラス)崩れの災害があったことを記憶しています。
    子供の頃体験した1959年9月26日の伊勢湾台風は、最強でした。上陸時、929.2mb。
    伊勢湾台風では、逗子小学校が大人の腰の高さぐらいまで水につかりました。

    18号は上記に匹敵するのではないでしょうか。
    くれぐれも用心してください。

    返信
  2. tetuando

    9/23に第一章のコメントを書いて、ダッシュボードを開いて初めてこのMOMOさんからのコメントに気付きました。今回のHPの本文欄にはコメント有無の表示が出ないことを認識しました。
    鹿児島市への台風18号の被害は嘘のように有りませんでした。台風の目が屋久島の西からまっすぐ北上したことで、台風の低い雲(暴風雨源)が、大隅半島に引掛かってしまったたようです。その為、薩摩半島(串木野から北は暴風雨→秋雨前線が加わった)の南・南西(坊津・加世田は暴風のみ)・東側では、上陸した11時から1時間くらい、風の音が少しキツイかな、と感じる程度でした。後のニュ―スでは湾奥の加治木・霧島は豪雨だったのこと、暴風は霧島連山で遮られたのではないでしょうか。
    ということで、大きくて強い台風は、鹿児島市(14時から山形屋も営業)に足跡を残さなかったようです。有難かったのは鴨池のイオン(2年前にダイエーから経営引き継ぎ)のソフトバンク優勝セールが1日延長され、20日が最終日になりました。20日はイオンのお得デーの5%offが重なりました。
    伊勢湾台風では、その930mb(今はヘクトパスカル)による高波の波高の予想計算が堤防高よりも高かったことで、「計算が間違っているのだろう」、と計算値よりも低く、堤防でやっと止まる波高値の警報を出したそうです。一応、警報は出したのですが、誰も経験したことのない波高禍があの大被害をもたらしたのでしょう。逗子小学校は海岸からどのくらい離れているのですか。水産学部では、昭和26年のルース台風で逗子小学校と同じ目に遭っています。当時の水産学部前の国道225号の目の前は海岸(現在の与次郎地区・埋立て)で、水門もあり、堤防がないも同然だったことからの災害だったようです。在学中に金沢先生から聞いたことがありました。

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