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第一章 関川流域・米どころ

全国に点在したメチル水銀汚染について記そうと書き始めましたが、遅々として進まず、まだ第一章・関川流域に止まっています。全国に共通するメチル水銀汚染源として稲作におけるイモチ病対策に大量散布された「セレサン石灰;酢酸フェニル水銀系農薬」が考えられます。ここまでの世間の常識に照らせば、共通するメチル水銀汚染源は工場廃液です。水銀を触媒としてアセチレンの水添加反応でアセトアルデヒドを生産すれば、反応液中でメチル水銀が副生することは確認されています。当時の関川流域の渋江川には、ダイセル新井工場でアセトアルデヒドを、日本曹達二本木工場で苛性ソーダを、また関川河口に流入する保倉川には、信越化学直江津工場で苛性ソーダを、それぞれ工程に水銀を使って生産していました。関川流域で「公害」が発生しているだろうと注目されました。

前回の関川流域のメチル水銀汚染については、青木弘氏が昭和41、42、43年度の厚生省の公害調査委託研究費による1966年6月、10月および12月に新潟県で操業中だった二か所のアセトアルデヒド生産工場(電気化学青海工場・ダイセル新井工場)の廃液および周辺底質・河川水の水銀調査について記述しています。青木氏の結論は、二工場(とくに新井工場は)ともに無視できないメチル水銀を流出させたとしています。水俣病問題に発展しなかった理由として、前者は工場廃液のスラリーを再利用(セメント添加)によって適切に処理したことに加え、潮流が大きく水深のある日本海に排水されたことを挙げています。後者は、渋江川流域住民に川魚を多食する習慣がなかったからとしています。流域がメチル水銀に汚染されなかったとは結論していません。しかし、現時点における関川流域の川魚のメチル水銀汚染源は、関川源流の白田切川からの火山性水銀となっています。科学的な証明が為されている訳ではありません。科学的に調査をしても、結果の多くが定性的に考察されてしまいます。実際、この定性的な考察が間違っていないことを担保に、結論としては定量(多数決)的な評価に収めるのが通例になっていると思います。

今回は、関川流域の河底質および川魚類の総水銀レベルの過去10~30年余に亘る経年変動を上越市の環境に関する年次報告と、過去の論文報告等を資料として統計学(定量)的に検討したいと思います。とくに、これまでの調査・研究で駆使された定性的結果と、それから導かれた定量的結論の問題点を明らかにしたいと思います。

先に、青木は、関川(渋江川)流域で操業していたアセトアルデヒド生産工場(‘68年3月操業中止)に関連の河川底質の‘66年6月、10月および12月の総水銀濃度を報告しています(水銀による環境汚染に関する研究 - Hg Series No. 12 - 第1報化学工場内外の排水中水銀量と河川への汚染について,536-545,24,日衛誌,1970;2017. 9. 18に当HPに既投稿)。また、上越市の環境情報センターが年次毎に関川流域の底質総水銀濃度を報告しています。これまでは、上越市の環境調査の年次報告は、上越市のHPから時を遡っても閲覧・確認することが可能でした。しかし、2013年度からの関川流域環境は、妙高市が報告する最近の報告書だけの閲覧になりました。上越市の過去の報告書は閲覧出来なくなりました。

青木の調査/研究は、「公害」を確認するのが目的でしたので、工場排水口および廃液の行先の環境測定に終始しています。一部、排水口よりもかなり上流域も対象にし、排水口より十分、低い値を得ています(後述します)。しかし、その結果に疑問を持つことはありませんでした。自治体(上越市・妙高市)の報告は、モニタリングの公表という機能が主旨であり、メチル水銀汚染源とされている白田切川の火山性水銀の環境における動向を検討することなど微塵にも考えていないようです。そのような調査/研究・報告から何かしら「関川流域のメチル水銀汚染源」に関する情報を得ようと思います。

1982年から2015年の工場排水口関連の総水銀モニタリングデータがあります。底質の採取地は、白田切川 (白田切橋)、渋江川(日曹西ヶ窪排水口直下)、渋江川(ダイセル化学排水口直下)、関川(日本曹達東木島排水口直下)および保倉川(信越化学排水口直下;関川への流入地より上流)です。工場排水口群の底質は1973年から採取されていますが、白田切川のそれらの採取が1982年からなので、今回の解析は1982年からの33年間(34回)ということです。

まず、底質の総水銀幾何平均濃度,95%信頼区間(ppm)を列記します。白田切橋; 3.35, [2.82 – 3.99]、日曹西ヶ窪;0.19,[0.15 – 0.25]、ダイセル化学;0.24,[0.14 – 0.39]、日本曹達東木島;0.17,[0.14 – 0.22])および信越化学;0.08,[0.05 – 0.13]です。火山性水銀は最上流の白田切川から流下するのですから、白田切橋の底質THgが他4地点の数十倍程度であることは、それだけで汚染源でない証拠だと思います。水俣百間排水口は2010 ppm(1959年)、阿賀野川鹿瀬排水口は30 ppm(1975年)でした。このような比較をする研究者は皆無ですが、何故々々坊やの真骨頂です。鹿瀬工場の廃液がメチル水銀汚染源である可能性も低いのではないでしょうか。

青木は4つの排水口のうち日曹東木島およびダイセル化学の二か所の底質THgを、それぞれ4.13 ppmおよび226 ppmと報告しています。測定年は1966年なので、両工場ともに操業中です。二つの工場廃液が多少とも水銀を含んでいたことを説明しています。ところで、貴重なデータがあります(前述のものです)。ダイセル化学の排水口より200m上流地点(渋江川;関川に注ぐ支流・白田切川からの直接の流入はない)の底質で5.28 ppmの THgを検出しています。測定した時期は異なりますが白田切橋のTHgの信頼区間上限の3.99 ppmを超えています。青木は、「公害」の可能性を論じるのが目的でしたので、226 ppmに比べればかなりの低値が200m上流域で検出されたことの奇妙さに何の疑問も持たなかったのでしょう。冷静になって工場廃液以外の水銀負荷源があると気付くべきだったでしょう。このダイセル化学の排水口より200m上流の底質の5.28ppmがダイセル化学の工場廃液由来ではないことは明らかです。また、白田切川からの火山性水銀でないことも明らかです。だからといって農薬由来であるという証拠はありません。1966年は水銀系農薬の使用量の最大年です。

さて、1982年からの33年間の排水口水銀と白田切川の水銀との動向を重回帰分析で解析しました。4か所の排水口の底質総水銀濃度の対数値が従属変数です。それらの33年間の変動が対応年の白田切橋底質の総水銀濃度の対数値(説明変数)と同調(相関)しているかを調べました。説明変数を調整するために4か所の排水口はそれぞれ共変数として用いました。

他の3か所(ダイセル化学、西ヶ窪および東木島)よりも有意に低い(p<0.001, p=0.001 and p=0.003)信越化学の底質水銀の変動で調整すると、火山性水銀がそれぞれの底質水銀を変動させてはいなかった(p=0.271)。ところで、東木島排水口は関川と渋江川の合流点より2 km程下流にあり、唯一、白田切川の流れが加わっています。東木島と白田切橋の底質総水銀濃度は有意に相関します(r=0.466, p=0.003)。したがって、火山性水銀が東木島排水口の底質の負荷源であるための必要条件のひとつが得られていることになります。現在、排水口から水銀が流されていないことから、東木島底質水銀の負荷源が火山性水銀である可能性はあるでしょう。ただし、1983年~2001年までのデータでは両者は負相関関係にあり(r=-0.351, p=0.982)、2002年~2015年の両者は有意の正相関関係にあります(r=0.533, p=0.004)。2002年以降の東木島排水口底質水銀の負荷源の一つとして火山性水銀と同定出来そうです。

次に、1983年から2001年までに実施された関川流域の底質調査を解析しました。白田切川の火山性水銀が(メチル)水銀負荷源と公表した後の調査です。調査地点は、最上流の白田切橋(関川合流前の白田切川)の河川水が直接流下する泉橋(関川上流),広島橋(関川中上流),稲田橋(関川中下流),直江津橋(関川下流),および直江津地先(日本海)です。また、白田切川の河川水が直接流下しない渋江橋(関川合流前の渋江川),新箱井橋(関川合流前の矢代川),吉野橋(保倉川中流),三分一橋(保倉川中下流),および古城橋(保倉川下流)です。

18年間の各地点(n=19)の総水銀幾何平均濃度・[95%信頼区間(ppm)]は、白田切橋;3.60,[3.18 – 4.07]、泉橋;0.096,[0.082 – 0.111]、広島橋;0.106,[0.087 – 0.128]、稲田橋;0.096,[0.081 – 0.114]、直江津橋;0.094,[0.070 – 0.126]、直江津地先;0.075,[0.054 – 0.104]、渋江橋;0.180,[0.132 – 0.245]、新箱井橋;0.039,[0.032 – 0.047]、吉野橋;0.057,[0.053 – 0.062]、三分一橋;0.063,[0.054 – 0.074]、古城橋;0.059,[0.047 – 0.074]です。直江津地先は1984年から測定されています(n=18)。

底質総水銀濃度の対数値を従属変数とする重回帰分析を行いました。各測定地点の違いを調整すると、底質総水銀濃度の対数値は白田切橋底質総水銀濃度の対数値の変動に従って有意に低下していました(回帰係数;-0.319,標準誤差;0.132,p=0.017)。有意ですが、火山性水銀濃度と負相関関係にあるという結果です。1983年~2001年に各地点の底質で検出された水銀が火山性水銀である可能性は極めて低いです。前述の1983年~2001年の東木島排水口(関川沿いに在る)底質水銀濃度が火山性水銀と負相関関係にあることと結果の一致が見られています。1983年~2001年の関川流域の底質総水銀の水銀負荷源は火山性水銀ではないと考えられます。

メチル水銀汚染による人への影響を考える上で、川魚の水銀濃度を知ることは重要です。行政府もそれを承知しており、1985年から2015年まで川魚(ウグイ)の水銀モニタリングを継続しています。途中2002年、03年、および04年は実施していませんので、28の年度のデータがあります。31年間(28回の測定値)の各採集地点のウグイの総水銀幾何平均濃度・[95%信頼区間(ppb)]は、関川上流;112,[93 – 136]、関川中流;153,[134 – 174]、関川下流;167,[152 – 185]、櫛池川;160,[141 – 181]、渋江川;184,[163 – 208]、矢代川;189,[163 – 219] です。これらのデータについて白田切橋の底質総水銀濃度の経年変動との関わりを重回帰分析で検討しました。関川の支流(櫛池・渋江・矢代川)のウグイの総水銀濃度の方が関川のそれらよりも有意に高いです(p=0.001)。当然、火山性水銀とウグイの総水銀濃度とに有意の関係はありません(p=0.872)。その上で、関川では上流のウグイのそれらが最小で、中流・下流のそれらとの差は有意です(p=0.001 & p<0.001)。関川の支流では櫛池川のそれらが最小ですが、渋江川のそれらとの差はなく(p=0.131)、矢代川のそれらとは差のある傾向にありました(p=0.059)。統計解析からは、ウグイの総水銀の負荷源・曝露源が火山性水銀である可能性はないと考えます。

2005年から2015年(2013年欠損なので10年度分)には関川下流と保倉川(関川河口に流れ込む)におけるウグイ・フナ・ニゴイの総水銀濃度が報告されています。両河川の各魚種の総水銀幾何平均濃度・[95%信頼区間(ppb)]を記します。関川/ウグイ;159,[136 – 186]、フナ;103,[84 – 127]、ニゴイ497,[407 – 607]、保倉川/ウグイ;155,[120 – 199]、フナ;85,[58 – 123]、ニゴイ452,[377 – 543] です。これも白田切橋の総水銀濃度を説明要因として加え、川魚の水銀の魚種別・河川別の経年変動を重回帰分析で検討しました。関川産の川魚の水銀のほうが保倉川産のそれらより高いですが有意ではありません(p=0.189)。魚種別総水銀濃度については、フナはウグイより有意に低く(p<0.001)、ウグイはニゴイより有意に低値でした(p<0.001)。火山性水銀の変動に依存して川魚の総水銀濃度が低下しましたが、有意ではありませんでした(回帰係数;-0.082, p=0.131)。しかし、川魚の総水銀濃度が経年的に有意に上昇していました(0.017, p=0.005)。重回帰分析なので、魚種および河川、さらに火山性水銀の影響を調整してもなお、川魚の総水銀濃度は経年的に低下しています。10年度分の幾何平均値でさえ、両河川ニゴイは、魚介類の暫定的総水銀規制値 [0.4 ppm(400 ppb)] を超えています。行政府は原因を明らかにする必要があります。

原因の調査は当然実施すべきですが、河口域では、川魚(ニゴイ)の餌(底泥)も含め、海岸動物の水銀モニタリングも必要だと思います。疫学的調査であれば、魚齢・体重・体長・採集日が記録されているはずです。そのようなデータがあれば、原因の一部が明らかにすることも可能なはずですが、単なるモニタリングの継続実施に止まっているようです。しかし、モニタリングを継続していることで、経年変動が検出できました。最低限の税金(庶民の意思)の使い方を示していると言ってよいでしょう。稲作の耕地面積は関川流域の方が保倉川流域より広いです。水銀系農薬の残留水銀のメチル化が原因である可能性は否定できませんが、これだけのデータでは結論できません。しかし、火山性水銀の可能性はないと思います。

関川流域の過去のメチル水銀汚染に関しては、データが全くないので、その原因を明らかにすることは出来ませんでした。しかし、少なくとも、行政府が叫ぶ、火山性水銀説は根拠のないものという結論は得られたと思います。

これで第一章は終わります。

公開日 2018年6月21日作成者 tetuando

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