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セレサン石灰(酢酸フェニル水銀含有農薬)

この年になると、新年を迎えても、特別な何かに出会うことは少ないように思います。この年末・年始は久しぶりに鹿児島でしたので、照国神社に行きました。神社への参拝では、お願いではなく、感謝を伝えるというのが一般的ですが、「水俣病論文」が出版まで行けるように秘かに「お願い」しました。

とくに何もなく松の内が過ぎました。すると、御利益とは言えないまでも、ひょんなメールが入りました。1月14日のことです。「セレサン石灰が手に入りそうです。」、と10年以上前に、あるブログに残留農薬の健康影響について投稿していた方に、投稿内容に水銀系農薬のことが書かれていたこともあって、メールしたことがあります。当時は、投稿者のアドレスが表示されていたから簡単でした。メールの遣り取りをしている内に、相手の方の勤め先では、一年に数回、廃棄すべき農薬の回収・廃棄処分をやっていることが判りました。そこで、「セレサン石灰が手に入ったら、是非、欲しい」とお願いしました。快い返事をいただきました。その後、暫くして、硫酸銅と酢酸フェニル水銀の入った農薬;水銀ボルドーを送ってもらったことがありました。しかし、その農薬は、「稲イモチ病」対策に使われたものではなかったこともあり、その内、セレサン石灰が回収されるだろう、と思い、分析もせず、送って頂いた箱のままにしていました。実は、まだ、現役時代の教室の片隅に鎮座しています。そして、何の音沙汰もなく10年以上経ったという背景があります。

回収作業時に予告のメールがあったのに続いて、「確保しました。何処に・どのように送りましょうか?」とのメールでしたが、現在、水銀分析をする手段の無いことと「水銀分析者を探します」を伝えました。何とか水銀分析をやってくれる一人の研究者に出会い、送ってもらった「セレサン石灰」をその研究者に渡しました。現在、その結果を待っているところです。

さて、「セレサン石灰」をそれなりに紹介しましょう。酢酸フェニル水銀を0.16~0.42%、増量剤(あるいは基質というべきかもしれません)としてタルク(滑石;モース硬度1→爪より柔らかい→かつては黒板・裁縫用のチョークに使われた,ベビーパウダーにも使われていましたが、アスベストが混ざっていることもあることから、現在は使われなくなった)30%と消石灰(Ca(OH)2)70%が一般的な配合割合です。農薬専門ではない現在では東証1部上場の薬品会社も製造していました。したがって、新聞・雑誌で「酢酸フェニル水銀系農薬がメチル水銀汚染源だった」、という記事を載せるには相当なリスクがあるでしょう。増量剤の消石灰は0.42%の酢酸フェニル水銀がアルカリ域ならば水に溶けるからです。タルクは消石灰だけだと取扱いの注意度(アルカリ度)が高くなりすぎるから加えたのだと思われます。ただ、その後の試験では、タルクの含量を多くする方がメチル水銀の生成量が増すという結果があります。効能は、何といっても「稲イモチ病」の予防と治療です。効能が治療にだけであれば、それほど使われなかったのでしょうが、予防として使えたので、1953~68年の全国における使用量は水銀量で2300㌧という大量なものでした。この農薬が全国的に普及したのは1955年(s30)です。1954年の米石高は、5900万石でしたが、1955年は8000万石の大々大豊作でした。そんな効能(+豊作)があったので、それ以来、農家にとって、このセレサン石灰の大量散布は「必須」の農作業になったようです。7月から、8月中旬(西日本)・9月上旬(東日本)が散布時期です。

塩化フェニル水銀あるいはヨウ化フェニル水銀を使った農薬もありましたが、これらの製剤からのメチル水銀の析出量は微量であったことが確かめられています。しかし、フェニル水銀系農薬の9割以上が酢酸フェニル水銀製剤です。理由は酢酸フェニル水銀の合成が容易だからだと思われます。(CH3COO)2Hg;酢酸第二水銀とベンゼン(正にフェニル基)C6H6を混合して加熱すると酢酸フェニル水銀と酢酸が生成します。合成が容易なものは分解が容易とばかりは言えませんが、酢酸フェニル水銀系農薬は保管中に効能が落ちるので、その年の内に使い終わる量(必要量)を購入しよう、と言われていたようです。分解し易かったという証拠でしょう。このことから、散布中の酢酸フェニル水銀の分解でメチル水銀が生成していたことが想起出来ます。酢酸フェニル水銀は腸管から吸収がほとんど無いことから水銀中毒、もちろんメチル水銀中毒を起こさないと説明され、ほぼ安全な農薬として製造・販売・使用されました。しかし、実際には、散布中に・水田で、メチル水銀の生成があったからこそ、熊本・新潟・有明海・徳山湾・関川・鹿児島湾においてメチル水銀汚染(水俣病問題)が発生したことが説明出来ます。とくに鹿児島湾沿岸には水銀を使用する事業所は無く、「行政サイドは」、桜島の海底火山活動がメチル水銀汚染源であるとの暫定的報告を掲げるしかありませんでした。西之島はあれだけ活動しました・しています。その海底火山活動で、辺り一帯、メチル水銀汚染魚の宝庫になったとの報告が聞こえてこないのは何故でしょう。

依頼したセレサン石灰の水銀分析の結果報告はまだです。手にした「セレサン石灰」は昭和36年1月10日製造です。57年間に農薬の成分がどのように変化したかという結果しか報告出来ません。酢酸フェニル水銀が分解されなければ、昇華性はほとんど無いので、0.42%の水銀が検出されるでしょう。酢酸フェニル水銀が酢酸水銀(無機水銀)に分解された場合、酢酸水銀はほぼ昇華しないので、検出出来るでしょう。しかし、分解生成物がメチル水銀であれば、昇華性に富んでおり、57年間に跡形もないことでしょう。もう一つの痕跡なしが期待できるのは金属水銀ですが、酢酸フェニル水銀から金属水銀が生成することは無いはずです。「セレサン石灰」からメチル水銀が検出されて、総水銀中のメチル水銀濃度が1%を超えておれば、凄い結果です。私の予想は、「セレサン石灰」試料から水銀は検出出来なかった、です。この場合、間接的に、酢酸フェニル水銀がメチル水銀に分解されたことを説明したことになると考えています。何れ、結果は報告できると思います。

公開日2018年4月15日 作成者tetuando

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